そこに「友達」はいたのか / 映画 AKIRA

鑑賞中一番動揺したのは、エンドロールに書かれていた"TESSHO GENDA"の文字だった。

 

現在、各地で上映されている映画「AKIRA」を観た。

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名だたるクリエイター達が影響を受けたと公言するこの作品。
配信やDVDで見る手はいくらでもあったけど、肥大し荒廃した東京、思春期特有の乱暴さ、背景からアクションまで膨大な手間をかけて作られたこの作品は、できればぜひ劇場で見たいと思っていた。
今回、それが叶ってとても嬉しい。
(案の定、劇場を出てから金田のジャケットやバイク、劇伴のことばかり検索している)


■音がいい

まず、字のまんまなのだが「音」がいい。これは劇場で見て大正解だった。
AKIRAの話をするとなぜか青森のねぶた祭りの掛け声(ラッセーラッラッセーラッ)が聞こえてきたりするけれど、その意味がようやくわかった。近未来の風景に民族楽器を主題とした劇伴がとても良い効果を出している。
「芸能山代組」の作品がもっと聴いて見たいけれど「文明批判」がテーマのグループなので音楽配信はご興味があるかな...。Apple MusicやSpotifyで探しても見つからないのだけど...。
私は映画を見ること自体好きだが、作中でいきなり「ドン!」と大きな音がすると ビクッッ! と体が動いてしまう。だから隣の人を脅かしていないか常に気にする。
現在、映画館は「席を一つ空けて」座るようになっており。この点はとてもありがたい。
「大入満員」な劇場になるように願っているけれど、ある意味「今しか体験できない」映画館の状態かもしれない。

■本当に30年前の作品???

最高機密「アキラ」をめぐって起こる少年たちのぶつかり合いと政治劇が主題だ。
その背後で蠢く「反帝国」を掲げてデモをする団体、過激化する活動家、催涙弾のようなものを向ける警察機構、人々の間で信仰を集めるカルト教団...。
え、今の話? 劇場公開は1988年?? 本当に30年前に作ったの???
そう思わずにはいられなかった。
デモ隊の様子や活動家の振る舞い・暴動を鎮圧する警察は、日本における50年代以降の学生運動の雰囲気が存分に盛り込まれているが、今見ると香港のデモや米国ミネアポリスで起こった暴動を連想させ、正直笑って見られない。
カルト教団に救いを求める人々は、現在の新型コロナウイルスに対し「手指の消毒や適切な食事と休息」以外(例えば"聴くだけでコロナウイルスが退散する音楽CD"とか)に安心を求めている人々に重なる。

■そこに「友達」はいたのか

金田と鉄雄は本当に友達だったのか?
見終わってから、そのことをずっと考えている。
この映画が秀逸なのは、金田と鉄雄の「仲間意識の違い」や「劣等感」をしっかりと描いていることにあると思う。

この映画は原作となる漫画(グラフィック・ノベル)の連載中に作成されたため、結末が漫画と違うらしい。私自身、漫画を読んでいないので今後解釈が大きく変わるかもしれない。
「ごくせん」もビビるほどの不良校ぶりが出ている職業訓練校に通う彼らが求めるのは常に憂さ晴らしだ。
冒頭、最初の数カットですでに金田と鉄雄に上下関係があること、それに鉄雄が苛立っていること、その憂さを敵チームに鉄パイプを振り下ろすことで晴らしていること、これらはスムーズに伝わってきた。
そんな「言葉にしないけどうっすらと鬱憤をためている」人間が突如強力な力を手に入れたらどうなるか?
結局それがとんでもないことになるのだけど、子供の癇癪で一都市が丸ごと滅ぶ。
案外「崩壊」というのは簡単な理由で起こるのかもしれない。