メモ/ リン・ハント『なぜ歴史を学ぶのか』

 「スゴ本」ブログで紹介されていた1冊です。

するっとわかりやすい歴史学(それも史学史方面)の入門書です。

なぜ歴史を学ぶのか

なぜ歴史を学ぶのか

 

本書では全世界のあらゆる歴史を視座に入れつつ「なぜ、歴史学を学ぶ必要があるのか?」・「歴史学ってそもそも何なのか?」と、根幹に対してのアプローチを行っています。

冒頭で「それも史学史方面」と書いたのは、歴史学には「史学史」といいまして、「そもそも歴史とは何か?」「どのように歴史が記述されているのか?」を考える分野があります。
研究したい分野だけではなく、学問の発展過程そのものを学び、歴史をどのように語り、あるいは研究して記述すべきかを考えることで、自分の視野を広げていきます。

これ、包括的にと言うか、全体を見通すほど多分野の知識がないと難しいことで、私自身、歴史学を集中的に学ぶ機会があったときに一番後悔していることでもあります(自分の研究対象の史料を読むだけで手一杯で、ここまで把握する余裕がなかったので...)。

『歴史が論争の題材になるのは今に始まったことではなく、これからも何度も起きるし続いていく』これは民主主義社会において必然である。しかし、議論の際は相手への敬意を持った「リスペクトの歴史学」が必要なのだと著者は説きます。

例えば、史学的視点の基礎になったヘーゲルを「女性差別的だ」と捉えることは簡単ですが、そうした見方そのものをヘーゲルが考えたことは意識しておかないと、本当に言いたかったこと、伝えるべきことを見失うかもしれません。


面白いところは、歴史学が元々は「エリートのための学問」だったことです。ゆっくりとマイノリティ層を迎えながら、研究対象を施政者から一般市民を対象とした社会史に、さらにはモノなどの文化史に...と対象を広げていき、現在はあらゆる事象を視野に入れながら拡大している。史料も公文書だけでなく、何十年と綴られた個人の日記や工芸品のコレクションも大いに研究対象になります。

主題はあくまで「世界史」分野なので、「日本史」がどのように記述されてきたかをざっくり描いた研究があるかなー...誰か書いているかなー...と思いました(まだ探せていません)。

シンプルかつ核心をつき、巻末には読書案内もついている...と入門書としてお得な1冊だと感じました。

読後はぜひE.H.カー『歴史とは何か』(岩波新書)をどうぞ。

 

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)