もうずいぶん前になりますが、映画「返校 言葉が消えた日」観てきました。
題材で「重そう...」と思うかもしれませんが、ホラーモチーフの使い方も映画ならではの演出も素晴らしく、切ない味と希望が示されるラストが沁みました。
難しいかもしれませんが、音が重要な作品でもあるので、できればぜひ劇場で。
苦手だったはず...なんです
そもそも私はホラー作品が苦手でして、何かを「面白いよ〜」と勧められても苦笑いして「別にぃ〜...」ってやり過ごすタイプです。
例えば、ビブリオバトルで怖い本について聞いたことは何度もあり「面白そう!読みたい!」と思って投票したこともあるんですが、実際に手に取ることはなかなかありませんでした。
すごいぞ! 名越先生の「リトルナイトメア2」実況解説
そんな状態が変わり、「返校」の予告編を観てワクワクするようになっていました。
きっかけは精神科医の名越康文さんがYoutubeチャンネルで公開している「リトルナイトメア2」の実況解説動画の一群を見たことです。
www.youtube.com↑面白いのでぜひ。いきなり水木しげるの話から始めて開始5分程度でゲームの本質を突く先生がすごい。
名越先生は#2の動画の後半で『20世紀は完全にクラシックになってしまったんだね』と話されています。軽くまとめるとこんな感じ。
- 21世紀を生きる人が、20世紀を生きてきた人間が蓄えた文化・アイテムに触れることで、過去の空気や雰囲気を獲得し、これから先のことを見ることができる
- このゲームは1960年代以降の人間の生活空間がどういうもので、そこで自分たちが何を怖いと思い、何に暖かさを感じるのか、何にトラウマをもったのかを、ゲームプレイを通して繰り返し体験することで自分のものに昇華できるのではないか
- このゲームは恐怖だけど、描かれているノスタルジーの世界を通して、20世紀的な共同体を経験したことがない人でも文化的な遺伝子の橋渡しを行える
※上記は私による意訳なので、気になる方はぜひ動画で
私は名越先生の解説を聴き、「怖い」と言う感情が思っていた以上に不思議なものであると感じています。正確な論考は何も見ていませんが、自分が何を怖がるのか、どうして怖いのかを考えることで、自分の形というか、自分自身を見つめる力があるのではないか...と仮説を立てています。
映画 返校 言葉が消えた日
さて映画の話に戻りましょう。
原作は2017年1月にリリースされたホラーゲーム(※Nintendo Switch, STEAMで購入可能)です。「名作」と謳われ話題になっていることは知っていたものの、プレイしたことはなく、私がお話に触れるのはこの度の映画が初めてです。
あらすじ
1960年代、軍事政権下で戒厳令が敷かれ、思想の自由がなかった時代の台湾が舞台。
自由を讃える、あるいは植民地主義を批判する内容の書籍が徹底的に禁じられ、違反した人々には死刑さえも実行された時代。
高校生のファン・レイシンは、教室でのうたた寝からふと目を覚ますと、昼間だったはずの外は夜になり、机も椅子も埃だらけで校舎が荒れ果てていることに気づきます。
蝋燭を片手に外に出た彼女は後輩のウェイ・ジョンティンと出会い、一度校舎から出ようとしますが、嵐の影響で濁流ができ、道が塞がれ帰宅は絶望的だとわかります。
戻った校内には「忌中*1」や「国家の転覆を図る地下組織が見つかった」という内容の紙が貼られ、ファンとウェイはさらに悪夢のような光景を見ることになります...
上質なホラー!
見た感想の一番大きいものは「これは上質で素晴らしい」というものでした。
元々のゲームがそのように作られていると思うのですが、単に驚かすためのホラーではなく、書籍・鏡・人形に至るまで細かいモチーフの意味づけの一つ一つがグッと来るものでした。
例えば鏡なら普通は「姿そのもの」を映すものですが、知らないものが映り込む、あるいは知っているもの(自分の顔とか)が映らない、そういった演出が怖いわけです。
登場する高校生の一人が布袋劇人形*2で遊ぶのが好きなんですが、それが心情を解き明かすための重要なアイテムになっている。
ちなみに私は東離劍遊記を見ていたおかげかすぐに「布袋劇だ!」と気がついてテンションが上がりました。いいのか?
そして辛かった
映画として、エンターテインメントとして自分はこの映画を見ているけれど、ここで描かれている事が実際の体験だった人たちがいる。それを思うと「単純に楽しんでいいのか?」とも思うわけです。
パンフを読む限り、60年代の台湾を舞台にした映画としても非常に挑戦的で、扱いにくい題材だからこそ元のインディーゲームという媒体が切り込む事ができ、映画まで広がったのかなと。
映画は悲しみを見つめながら、そっと希望を置いて終わる形ではあります。
終わり方は美しかったけれど、同じ状況はいつ来てもおかしくないのではないか、と思わずにはいられません。
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