神奈川県横浜市上郷町の開発計画についての疑問

※5/19 画像を追加しました

 

こんにちは、花岡猫子といいます。

この記事は、2019年5月17日に東急建設株式会社が行った「上郷開発計画(仮称)」の「横浜市開発事業の調整等に関する条例」に基づく説明会について書いています。

 

「何が問題なのか?」という点については、下記のウェブサイトが詳細にまとめています。
一行で言うならば、ホタルが飛び交う貴重な自然や、関東最大規模かつ神奈川県唯一のたたら製鉄の遺跡が壊されようとしている、という問題です。

savesegami.com

先に言いますが、2021年(令和3年)に工事が始まる予定の「上郷開発計画(仮称)」は計画を考え直された方が良いと思います。

この開発計画は、対象となる横浜市栄区を「より良い場所にするため」に計画されたという意図はわかります。地域住民の方の中には、より良い暮らしができるようにと切実に願いを込めて賛成している方もいらしゃると思います。
ただ、事業者:東急建設株式会社の対応と参加された住民の方々の様子をみていると、開発を進めることが有意義な結果を生むとは思えません。

とてもモヤモヤしたものが残っているので、ここに書くことにします。

 

■この説明会に行った理由

きっかけはTwitterで16日に見かけたこのブログ記事でした。
http://yoshi-kanagawa.blog.jp/archives/79831996.html

 

❝関東最大で神奈川県現存唯一の蹈鞴(タタラ)製鉄遺跡の深田遺跡~猿田遺跡❞の森が、今年、東急建設と林文子市長によって破壊消滅の危機に晒されています。

 私は昨年秋に京都国立博物館で行われた「京のかたな」展を拝見しており、日本刀に関わる資料はとても貴重であること、まだまだ研究の余地があることをなんとなく肌で感じていました。
展覧会は京都の刀鍛冶たちに焦点を当てていましたが、今回開発の対象地域にある深田遺跡を調べれば、飛鳥〜平安時代頃の製鉄事情、それも関東地域のことが詳しくわかるかもしれません。そうなれば、刀剣にまつわる歴史だけではなく、これから描かれる日本史の姿も変わる可能性があります。
気になってしょうがないため、とにかく事実関係を把握することが先だと思い、足を運んでみることにしました。

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説明会のお知らせ(上記のブログ記事から画像をコピーしました。問題があれば削除します)



■当日の様子
以下、説明会で配布された資料と実際の説明、そして質疑応答の内容をもとに書いていきます。
議事次第は以下の通り

  • 開会(19:00)
  • 出席者紹介および事業者からのご挨拶
  • 本日の説明会までの経緯
  • 条例手続きについて
  • 開発事業計画のご説明
  • 環境保全について
  • 質疑応答
  • 閉会(20:30)

冒頭、司会の方が「説明会の内容について、SNSでの発信はお控えください」とおっしゃっていたのですが...これって企業の説明会でよくあることなのでしょうか。
開始までは配布資料と、入り口で受け取った「上郷深田遺跡を守る会ニュース」を読み比べて待ちました。

 

東急建設の説明
 質疑応答も含めて1時間半の説明会でした。
東急建設の説明を要約すると以下のようになります。

・今回の開発計画は「横浜市開発事業の調整等に関する条例」に基づいて行う。
・この開発は、土砂災害や治水事業の意味もあり、栄区に防災の拠点を作る目的も含んでいる。
環境保全には配慮しており、専門家の助言をもとに対象となる地域の生態系の調査やホタルの飼育も行なっている。
・今回は開発予定地の70%を自然保護地区とし、開発予定地を全体の30%に抑えるというもの。こうした開発は日本全国見ても類を見ない、画期的なものである。

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資料より抜粋。開発予定地は赤ワクで囲った緑色の場所です。

 

■質疑応答で伺えた意見

当日、ざっとみて参加された方は3〜40名ほど。ほとんどが開発対象の地域の方だったようです。外部からの参加も受け付けていました。

以下、質疑応答時のやり取りをもとにまとめた、開発に対する主な意見です。

●賛成

  • 地域が活性化するための開発なので早く手をつけてほしい。
  • 計画から実行まで時間がかかりすぎているため、自分が生きている間に終わらないのではないかと心配だ。
  • 今後、栄区が多くの人にとって住みやすい街になってほしいと思う、そのための開発として捉えている。


●反対

  • この開発計画は舞岡上郷線(※上記画像参照)ができる前から存在しているため、十数年前の栄区の状況を踏まえている。当時ならば開発しても有益だった思うが、現在は「将来、消滅する自治体が出てくる」と言われるほど人口が減少している。この状態で新たに開発を行い、商業施設や住居を増やすことは果たして有益なのか。
  • 開発により、日本最大のたたら製鉄の跡が残る深田遺跡を壊すことになる。これについては本調査がまだ行われておらず、調査が進めば歴史像が変わるほどの事実が明らかになる可能性がある。文化財保護の観点ついて、本計画でどのように考えているのかはっきりと意見を出してほしい。
  • 企業でホタルの飼育を行なっているというが、そのホタルを開発後の環境に放しても定着するとは限らない。今ある生態系を守るべきだ。
  • そもそも住民の合意は得られていない。
  • 開発後の維持管理はどのように行うつもりなのかが不明瞭のため、これまでのボランティア活動をしてきた人たちの努力が水の泡になる危険性がある。

また、私が強く疑問を感じたのは質問に対する東急建設の回答時の対応でした。
時間の制約があるため仕方がないとはいえ、長くなりがちな質問者の回答をやや強引に打ち切るところがあり、もう少し話を聞いても良かったのではないかと思う場面がいくつもありました。

 

「地域住民の合意は得られているか?」という質問に対し「横浜市開発事業の調整等に関する条例(※どうしても聞き取りづらかったので間違っているかもしれません)が可決された時に、すでに合意は成立していると考えている」と回答したんです。
これに対し、次々と「合意してない」と声が上がりました。
目の前に対象地域に住む方が座っていて、その方が納得している様子を見せていないのにです。

また「開発後の土地は横浜市に譲渡になるのか、寄付になるのか?」という質問に対しては「開発後は横浜市に『無償で譲渡する』ことを検討しているが、まだ審議中のため、決定していない」と言い「それは譲渡じゃない、寄付だ」とおっしゃる方がいました。

さらには「計画に助言をしている環境保全の専門家の方に話を伺いたいので、研究室か代表者の連絡先を教えて欲しい」という質問に対し「専門家の研究室や連絡先・代表者については『個人情報にあたる』と認識しているため、この場では公開できない」と回答していました。
関わっている研究者の方を守るためだと推測しますが...とても気持ちの悪い回答でした。

■疑問だらけの感想
部外者の私が書くのも恐縮ですが、説明会を聴いて思ったことを書きます。

東急建設は開発ありきで計画を進める雰囲気が強く、説明会にやってきた方々の意見を取り入れそうな様子がありません。
ニワカ知識ではありますが、開発を進めて商業施設を作るより、自然公園としてそのまま残したり、深田遺跡の本調査に出資したりする方が、「地域を考える企業」として株は上がるんじゃないかと考えてしまいます。
少なくとも、私の中では株が下がりました。

例えば50〜100年後、もし横浜市の市史が編まれることがあったとして「上郷開発計画(仮称)」のことは「市から委託された建設会社が、地域住民からの意見も取り入れて開発を行った」という一行で書かれて終わるシナリオを考えてしまいました。
これで良いのでしょうか?

「開発予定地の70%を自然保護地区とし、開発予定地を全体の30%に抑える」と説明する場面もありましたが、これ、本当に画期的なんでしょうか。

東急建設はあくまで「条例が可決されたから住民の合意は取れている」というスタンスで開発を肯定している節があります。少なくとも企業活動の後ろ盾ができているから、後は形式的な説明会や申請をやって開発を進めていけばいい、と考えているのではないでしょうか。
加えて、SNSで発信することがないようにと釘を刺した点も疑問です。

■今後の動き

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資料から抜粋。計画全体のスケジュール。

横浜市開発事業の調整等に関する条例」に以下の項目があります。

 

(開発事業計画書の提出等)

第13条 開発事業者は、第11条の説明が終了した日の翌日から起算して5日を経過した日(第2条第2号カに掲げる開発事業にあっては、第9条第2項の規定による届出を行った日の翌日)以後に、次に掲げる事項(第2条第2号カに掲げる開発事業にあっては、第1号に掲げる事項)を記載した書面(以下「開発事業計画書」という。)を市長に提出しなければならない。

(1) 開発事業区域内の土地の利用計画、予定される建築物の概要等の開発事業の構想

(2) 第11条の規定による開発事業の説明の状況

(3) 開発事業の構想に対する近接住民等の意見

(4) 前号の意見に対する開発事業者の見解

 

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資料から抜粋。意見書の送付先です。

 

資料に記載があるのですが、この計画について意見がある場合、5/23までに意見書を提出する必要があります。
条例で決められているとはいえ、時間がないですね...。

 

会場にメディア関係者と思われる方が見当たらず、今後の動きが報道されるかどうかはわかりませんが、関心のある人々で情報を共有するしかないのでしょう。

(「行きたいけれど、どうしても人手が足りない」というメディア側の事情は把握しています)