「テクノロジー」のとっかかりにおすすめ→未来と芸術展@森美術館

新年、初美術館は六本木の森美術館でした。
お目当ては「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命−− 人は明日どう生きるのか」

www.mori.art.museum
行くたびに刺激的な森美術館の展覧会。
今回は一言で言えば「吐きそう」でした。
...いやその、嫌いとかじゃないです。むしろ、チャンスがあれば多くの人に行って欲しい展覧会です。興味深い作品がたくさんあります。
例えば、マチュー・ケルビーニの「倫理的自動運転車」は、自動運転がどのようなアルゴリズムで動き、道徳的・倫理的にはどんな問題があるのかをわかりやすく体感できる良いものでした。
最先端のテクノロジーがもたらす未来とは何か?を自分の身近に引き下ろして見せてくれる、挑戦的な試みです。

...ただ、作品の中には扱うテーマの関係で生理的に受け付けないもの、なまなましくて直視しづらいもの、「許せない」と怒りたくなるものもあります。
でも「あなたが信じることは何なのか?」と鑑賞者に問いかけるもの、価値観を揺さぶるのもまた芸術の役割です。


なぜ私は「吐きそう」なのか

自分でも不思議でした。今まで、美術系の展覧会に行って「気持ち悪い」という印象が強いことがあまりなく、生理現象を起こすほどのことはなかったから。
正直、この文章も40秒ごとにタイプを止め、吐き気を落ち着かせるために休みながら書いているような感じです。

例えば、
・食料問題の解決のため「ミントやストロベリーの味がするゴキブリ」を開発したという広告(作家名/作品名:長谷川愛/ポップ・ローチ)
・動物を殺さなくて済む!培養肉を使い、編み物のように作り上げた挽肉を使ったステーキのプロモーション。ご予約は2028年1月から。(作家名/作品名:ネクスト・ネイチャー・ネットワーク/ビストロ・イン・ビトロ)
・外科手術で身体機能を強化した新生児(の模型)。(作家名/作品名:アギ・ヘインズ /「変容」シリーズ)
それはスポーツ分野で活躍するように、空気抵抗が少なくするために鼻にピンを埋め込まれていたり、栄養・カフェインなどの摂取効率を上げるため、拡張クリップを使ってほおが垂れ下がっていたりする新生児たち。

すまぬ...作成したことやアイデアはすごいのだが...どうしても気持ち悪かった...。
だが、大事なのは「どうしてそう思うのか」を鑑賞者自身が分析すること。
特に「食」分野の展示に関しては、模型やニセモノと分かっていても、どうしても「目の前に出された時」を考えずにはいられず、「自分、食べれるかな」と考えてしまいます。カラフルかつ味が良くても、Gを食べるのはちょっと無理かも。食べずに済むように食料問題を解決しましょう!(唐突)
どうしても辛かったのが「変容」シリーズで、「喘息を防ぐために足の中指を切断する」という写真があったこと。私自身が喘息で入院した経験があるため「もし親に指を切られていたらどうしよう」と思うと辛すぎて説明文もろくに読めず逃げるように通り過ぎてしまいました。
「切れてたら痛い」と考えるのは、自分が成長して大人になっているから痛みを想像できるだけかもしれません。赤ちゃんのうちに済ませていたら「終わってよかった」と考えているかも...う、つらい。

 

「家族」って何だろう

この流れで言えば長谷川愛「シェアード・ベイビー」も注目すべきだなと。
2016年、母親の病気が遺伝するのを避けるために「3人以上の親の遺伝子情報を持つ赤ちゃん」が誕生したというニュースに触発されたという作品。
↓関連ニュース

「3人の親」を持つ子、その可能性と問題点 | AERA dot. | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

イギリス、正式に「3人の親の遺伝子を持つ赤ちゃん」を認める | ギズモード・ジャパン

↓難病情報センターによる「ミトコンドリア病」解説

ミトコンドリア病(指定難病21) – 難病情報センター


あくまで「思考実験」ですが、バイオテクノロジーが家族を変える可能性が強いことから、「家族」って何だろうなと思ってしまいました。
デザイナーベビー等については上記で引用したAERAの記事にて「情報を得た上での同意(インフォームド・コンセント)」が赤ちゃん本人にできないという問題が指摘されていましたが、こうした根本的なものから「親が海外転勤になったらどうする?」といったものまで、もしも「3人以上の親の遺伝子を持つ赤ちゃんが技術的に可能、かつ合法になった場合」安心して暮らすために考えることは多岐に渡ることを考えさせられます。ただ、こうした話は決して「バイオテクノロジーによる子供」だけじゃないんじゃないか? 現実に「父・母・きょうだい」が揃う家族ではない人たちも多いわけで...現在の「家族の問題」を放置してこっちも考えられないんじゃないか? 解決できるの? と思考がぐるぐるしてきました。

この分野は考えることが多くて...忙しいなぁ。


凄かったものもあります

単純に「すごいぞ」と思ったのは実際にNASAにてプレゼンされたという「3Dプリンターを使い、火星で宇宙飛行士が1年間生活するための計画」。
作品名や作成者の名前を失念してしまいましたが、手順をざっとみた時「頭いい!」と快哉を叫びました。

  1. 火星にロボットを送る
  2. ロボットに探索してもらい、人間が生活できる場所を開拓してもらう
  3. 火星の土を取り込んで熱し、セメントのように固める。その素材で人体に有害な電磁波などを防ぐドームを作成。
  4. 数ヶ月でドームの作成が完了。その間に宇宙飛行士達が到着
  5. ドームまで機材を自動運搬
  6. 球状の居住スペースを展開。中を片付けて設置完了
    ※居住スペースは参加人数に合わせて幾つでもくっつけられる

いやちょっとすごくない!?「材料現地調達」ってめっちゃ頭いいじゃん。
実現するかとか、実際に参加したいかというのはまた別問題ですが、これを題材にSF作品があってもいいんじゃないかと思っちゃいました。「火星が舞台の日常系アニメ」...なんちゃって。


脇道もたのしい。

美術展の終わり、ミュージアムショップの近くに「MAM COLLECTION 011 横溝静 + 松川朋奈 -私たちが生きる、それぞれの時間」という展示コーナーがあります。
ここ、お時間ある方ぜひ観に行ってください。
私は松川朋奈さんの絵が、「一人で生きる女性」の寂寥感と諦めにそっと寄り添う感じがとても好きでした...画集は...画集の販売はありませんか...。