【開催レポ】4/6和装deビブリオバトル@大佛次郎記念館

 こんにちは、猫子です。

 4月6日に横浜の大佛次郎記念館で開催した「和装deビブリオバトル」の様子をお伝えします。

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4/9:紹介本一覧の誤字を修正

ちょうどチューリップが見頃でした。

お茶室入り口の飾り付け。雅。

お茶室の窓から見える桜。

記念館のスタッフ曰く「今年は桜の開花が例年よりも2週間ほど遅くて、ちょうどいい日に開催できたと思います!」なのだそう。

私にとっては通勤時の車窓からでしか拝めなかった桜、静かなお茶室から眺める最高のロケーションでした。

お茶室の中、かまぼこ型のモチーフは記念館内のあちこちで見受けられます。

実施内容

日付:2024年4月6日(土) 12:45〜16:30
参加者:7名(司会含む)
内訳:バトラー5名、観戦1名、司会1名(※バトラーに記念館スタッフを含みます)
テーマ「猫」

展示の解説

 参加者の集合が確認できたら、まずは担当スタッフの方から開催中の展示「大佛次郎木村荘八 作家と画家、そして猫」について解説をいただきました。

osaragijiro-museum.jp

 大佛次郎の小説に多くの挿絵を寄せた洋画家・木村荘八との交流を焦点に当てた特別展です。

 2人は幕末から明治初期の「文明開化」の時代が好きであること、幼い頃から翻訳小説に親しんでいたこと、そして猫好きであったこと等数々の共通点があり、仕事を通じて交流を深めていったそうです。

 当時の新聞連載小説は新聞の中でも花形で、特に東京朝日新聞大阪朝日新聞(現:朝日新聞)と東京日日新聞(現:毎日新聞)が発行部数と購読者の数を競い合っていた時代でした。

 毎回、小説の内容にがっちりと噛み合った挿絵が載る、というのもすごいことですが、何より自分の好きなもの仕事にできてそれが大ヒット...なのはとても素敵ですね。

 展示の中には『霧笛』に寄せられた挿絵の原画がいくつかありましたが、縦と横、両方のタイプが存在します。

 スタッフの方によると「横のものは新聞掲載当時のもの、縦のものは戦後単行本化するときに本の形に合わせて改めて書き直したもの」だそうです。
なんでも、新聞掲載当時の原画は戦時中の混乱で半数近くが行方不明になってしまったため、書き直したのだとか。

 新聞に掲載された原画には欄外に細かい指示が書き込まれ、指示通りに印刷ができるように担当の人が非常に苦労をされたというお話もありました。

 残念ながら木村荘八が先に亡くなって(1958年)しまうのですが、形見として遺族から送られたものにも「猫のおもちゃ絵」があるなど、最後まで猫が心にあったのだと思いました。

ビブリオバトル

紹介本一覧(※左端は電子書籍です)

 展示開設の後は休憩を挟んでビブリオバトル。ジャンケンで勝った順から1番、2番、と決めていきました。また、今回は特別にチャンプ本獲得の方には副賞(※とらやの羊羹)も用意しました。たまたま花岡の手元にあったものなのですが、桜咲く麗らかな日のご縁という事で。

www.toraya-group.co.jp そのため、万が一同票で2冊以上がチャンプ本になった場合は決選投票をする、ということでゲームを進めていくことになりました。

 テーマは「猫」バトラーは和装(髪飾りやワンポイントOK)という縛りがありました。

 観覧の方も和装で揃えてくださった方もいて、とても嬉しかったです。

 以下は紹介本とバトルの様子をお伝えします。がついているものがチャンプ本です。

<紹介本一覧>

寺地はるな『架空の犬と嘘をつく猫』(中央公論新社
エドガー・アラン・ポー『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』
瀬戸内寂聴訳『源氏物語 巻六』(講談社)※紹介は単行本

 

野矢茂樹『語りえぬものを語る』(講談社学術文庫

 

大佛次郎『猫のいる日々』(徳間文庫)

【バトルの様子】

 1冊目は『架空の犬と嘘をつく猫』。『タイトルに「猫」が入っているのでチョイスしましたが、実は本文中に猫は出てきません』とのこと『強いていうなら、主人公が自分勝手な祖父に「事業のイメージキャラクターにするから猫の絵を描いてくれ」と言われて困惑しながら絵を描くシーンで猫が出てきます』とのこと。ビブリオバトルなので、もちろんこのような形でテーマに寄せていくこともOKです。

 内容としては「まともな大人が1人もいない家族」で育つことになった主人公の、30年間の成長の軌跡が描かれていきます。

 5年ごとのタイミングに合わせて章が分かれ、その時々の様子が淡々と描写されているそうですが、非常に暗い展開もあるものの、長い目で見たら「あの時は大変だったな」と思い返すこともできる...というある種のリアリティに満ちた内容で、読後感は意外とスッキリなのだそうです。

 2冊目は「猫といえば」の王道でエドガー・アラン・ポーの「黒猫」。

 大人しく動物好きの主人公はいつしか酒に溺れ、飼っていた猫を痛ましい方法で虐待し殺してしまいます。やがて自分を止めようとした妻にも手をかけ、その死体を地下室の壁に塗り込めてしまいますが...。

 作者のポーは早熟で、若い頃から才能溢れた作家だったそうです。が、辛い人生経験も多く、最期は謎の死を遂げてしまう...という方でもあったそうです(知らなかった...)

 「黒猫」自体は私も未読なのでなんともいえませんが、人間の暗部を余すことなく作品に仕立て上げた手腕が今でも人の心に響くのではないでしょうか。

 紹介の理由としては『テーマが「猫」だとみんなほっこりして可愛らしい本を選んでくると思ったので、あえて怖くて暗くて、幻想を打ち砕くような内容を持ってきてみた方が良いと思いました』とのこと。『どんな方に読んで欲しいですか』という質問には『動物モノの本を読んでほっこりしている方に現実を突きつけたいです』というお答えがありました。2冊目にしてのピリ辛なチョイスです。

 3冊目は瀬戸内寂聴訳の『源氏物語』。「巻六」とありますが、これは「若菜」の内容にあたります。

 紹介者の方曰く『欲しいものを全て手に入れた光源氏の没落が始まるのがこの「若菜」。それまでの巻は全て序章であるとも言えるほどです。』とのこと。

 54帖ある物語のうち、上下巻で分かれているのはこの「若菜」のみ。私はダイジェスト版とも言える版で全体をざっと見通しただけですが、紫式部もこの部分は気合を入れて描いたのではないでしょうか。

 ※ちなみにこの文章を書くにあたり、私が参考にしているのはこちら↓

 テーマ「猫」との繋がりとしては、『終わりの始まり、栄華の崩壊のきっかけが猫だったのです』。

 若菜の帖では、40代を迎えた光源氏が、訳あって親子ほど歳の離れた女三の宮を妻として迎え入れることになり、正妻である紫の上は冷静を装いつつも内心は心穏やかにはなれない。そんな中、光源氏の甥である柏木が蹴鞠の最中に休憩していたところ、女三の宮の元で飼われていた猫が御簾の下から走りでて、首につけていた綱がからまり、御簾の端が引き上げられて部屋が丸見えになってしまう。そのときに女三の宮を垣間見た柏木は彼女の可憐さに恋をし、相手が光源氏の「妻」であるにもかかわらず完全にのぼせ上がってしまう...。

 ここまで紹介された中で一気に時代が遡りました。自分も文章を書くにあたって読み返してみて、こんなところに猫が!と改めての発見となりました。

 ビブリオバトルで紹介本に迷ったら、古典の中に関連するシーンがないかを探してみても良いかもしれません。

 4冊目は野矢茂樹『語りえぬものを語る』。

 紹介してくださった方曰く『哲学の入門書なのですが、高校の教科書や大学入試に採用されるなど非常に話題の1冊です。つまり大人が「どうしても読ませたい!」と思っている本ということです』なのだそう。

 テーマ「猫」とのつながりはズバリ「猫は後悔するか」という章があるから。
『「猫は狩りに失敗した時に『ああすればよかった』と後悔するのだろうか?」という疑問を考えた章で、これに限らず、例えもわかりやすく、私もあまり哲学に馴染みはないんですが、難しい単語があっても読むとスッと入ってきます。1回が8ページほどなので、注釈まで含めて毎日読んでも100日は持ちます!』。

 ......つまり1冊で非常にお得ということですね。

 5冊目は大佛次郎『猫のいる日々』。

 ゲームのトリにしてド直球の猫本がきました。記念館にお勤めのスタッフさんによる紹介で、大佛次郎が手がけた猫にまつわるエッセイ・童話・短編などがまとめられています。

 中でもおすすめは子猫の視点で描いた童話(※タイトルを失念...)で、まさに猫の動き!!!と言いたくなるような描写の連続で大佛次郎の猫愛がビシビシ伝わってくる一作だそう。

 『大佛って、大人には厳しいところがあるんですよ。戦後の日本人を見て「そんなにアメリカ贔屓になって大丈夫か?日本の良いところを忘れていないか?」と批判的にはなっているんですが、子供に対しては「大丈夫だよ、絶対に明るい明日はやってくるからね」と徹底的に希望を語るんです』。

 荒廃した戦後の日本で多くの作家が立ち上がり、希望を語り続けたから今があるのかもしれません。

 ちなみにこの本、記念館の売店で購入することも可能です。来館の記念にぜひどうぞ(宣伝)。

 ちなみに、元々は大佛と親交の深かった画家・猪熊弦一郎による装画で出ていたものですが、表紙が岩合光昭さんの写真に変わってから一気に売り上げが伸びたそう......。

参考:猪熊弦一郎による挿画のバージョン↓

wagahaido.com

 ちなみに「書肆 吾輩堂」さんは偶然調べて出てきた本屋さんなんですが、福岡県にある猫本専門の書店さんなのですね、行きたい......。

 投票は参加人数が少なめであることもあり「読みたいと思った本を指差す」形式で実施しました。

 結果、チャンプ本は『語りえぬものを語る』に決定。おめでとうございます!

バトルを終えて

 終了後は自由に歓談と写真撮影を行いました。

 テーマが「猫」だから本がからよると思いきや、意外なチョイスが続き非常に楽しかった! とわいわいお話が弾みました。よかった....。

 自由解散で、館内で開催されている「大佛次郎 ねこ 写真展 2024」の投票のためぶらぶらと見てまわります。

300枚近くの応募があったという「大佛次郎 ねこ写真展2024」。

 正直1枚になんて選べない...ぐらい愛情深い写真がたくさん。猫好きにはたまらない幸せな空間でした。

 開催期間は4/14(日)まで、SNS上の「いいね」も投票としてカウントするそうなので、ぜひご覧になってみてください。

osaragijiro-museum.jp

twitter.com ではまた次回っ!