「日常生活」は冒険だ。/映画「インディペンデントリビング」

bunbunfilms.com

事前情報なしで観てびっくり。「インディペンデントリビング」、めちゃ良い映画でした。

大阪の自立生活センターを舞台に、リスクを抱えながら自立生活を選ぶ人々の、葛藤と成長と生活の記録です。
日常に寄り添い、「ふつうの人」は「当たり前だ」と思うことでも「一つ一つが大冒険でチャレンジングである」という様子が伝わります。だからこそ、うまくいった瞬間はガッツポーズをしたくなるほどのカタルシスがあります。

■「自立生活運動」とは

障害者に自立した生活を送る権利がある。という運動のことを「IL運動(Independent Living Movement)」というそうです。
元々は60年代の米国で起きた公民権運動に影響を受け、70年代に入ると「障害者は地域で、自分で自分の援助(ヘルパーなど)を選択・管理しながら生活すべきである」という考えをもとに、当事者による運動が盛んに行われました。

日本国内では神奈川の「青い芝の会」が有名です(日本の運動はひとまず厚生労働省のこちらの論文が全体像の把握に良さそうです)。

ききかじりですが、大阪はこのIL運動が昔から強く、映画を観ていてもセンター運営の背後には当事者たちの膨大な運動の積み上げがあるのではないか、と感じる内容でした。

自立生活支援センターでは、基本的に「やりたい」ということは全力で応援する。

「俳優をやってみたい」という当事者のために「登場人物がほぼ全員車椅子」な任侠映画を作ってしまうなど、フットワークの軽さとアクティブさが存分に出ていました。

■字幕が読みやすい

さて、この映画特徴の一つは、通常の上映がバリアフリー上映であること。どんな方でも楽しく見ることができます。
日本語字幕はもちろん、UDCast方式の音声ガイドもついており、何よりBGMや挿入歌の歌詞、「その台詞を誰が喋っているのか?」まで明確に書き分けられた字幕のため、作品理解がとても楽でした。

■導入が、良い

ひどい言い方になりますが...ドキュメンタリー映画ってどこか「素人味」が出ていてOKというか、許してしまう部分があると思います。

この映画、そんな部分がほとんどないんです。

冒頭、開始5分でヘルパーのカワサキさんが歌う曲をバックに、車椅子で移動する当事者の様子が流れます。ホイールの軋む音、段差を平にするステップ、どれも日常の光景で、その中にスッと挟まれるスタッフロール。映像の作り方としてもとても観やすく良いものでした。

■絶妙な距離感

この映画がすごいと思ったのは、当事者:あすかさんの母親を悪者に描いていないことです。

あすかさんは精神と知的のハンデがありながら、自立生活をしようとヘルパーさんを利用して生活を始めます。しかし、お母様は心配のあまり、何か失敗があるときつい口調であすかさんを責めてしまいます。

この時、お母様を「子供の自立を邪魔する親」という「悪役」に撮っていないんですね。いくらでもそう撮れるのに、ものすごく気をつけて撮影している。
結局、お母様はただ自分の子供のことがとても心配なだけで、傷つけたくてきつい言い方をしているわけじゃない。子供が自分の手を離れる始めた段階である、という「子離れを経験し始めた親の一人」として、決して「障害者の親だから特別」ではなく、人生で経験する一つの段階を描いているんです。

■すごい仕事

映画の中で、当事者の一人が言ったことがとても印象的でした。

どん底の境遇にある人の生活を変える。これはえらい仕事やで」

この映画を「楽しい」とポジティブに観ることができるのは、当事者の方々だけでなく、ヘルパーさんたちも朗らかに笑いつつ、当事者のことを受け止めて悩みながら日々を過ごしている。

「もっとたくさん、自立支援センターがあちこちにあったら、もっと違う生活になる人はたくさんいると思う」

映画ではヘルパーさんのお仕事ぶりも描かれ、特徴を捉えて必要なサービスを行う、専門知見と経験が必要な仕事であることが伺えます。

保育士と共に「待遇改善」が訴えられる職種の一つですが、そういえば最近どうなっているんだ?と思って調べたところ、厚生労働省の資料がヒットしました(リンク先はPDFです)。

ボリュームがあるのでじっくり読みたいです。

■「感動ポルノ」として消費する私がいないか?

さて、この映画は「健常者」の価値観を揺さぶるものでもあります。

それまで重度心身障害者向けの施設の生活しか知らない状態から「なんでも自分で決める」自立生活への転換、「みんながやっているごく普通のこと」が難しい・時間がかかる、という状態で、戸惑いや失敗もたくさん経験します。

だからこそ、うまく行ったときの爽快感は素晴らしいものなのですが...はて、私は「感動ポルノ」を消費しているのではないか? と疑う時もありました(※あくまで私の場合です)。

私は弟が自閉症です。

もう十分に大人なのに、時々イライラして彼に当たり散らしてしまうことがあります。自分はひどい姉だ、ひどい家族だ。そう思う時もたくさんあります。

そんな私がキラキラとした障害当事者の生活を見て「うん、やっぱり人間らしく生きたいよね☆」って思ってるの、気持ち悪くない? 私、そう思う資格あるの?

「お前なんて人間じゃない」って、私はどこかで線引きをしていないか?

そんな暗い気持ちにも、光を当てて考える映画体験でした。